希有なドラマを生み出す最大の要素は“親子の絆”

編集長のひとりごと

中学三年生にとっては、中学校生活“最後”の大会である『中体連夏季大会』が始まった。

ざっくりの数字だが、浜松地区には六十校、二万五千人くらいの中学生がいる。そのうち、三年生は約八千人。八千人の中学生が最後の夏を迎えたことになる。これを書いているのは7月16日。ほとんどの部活で地区大会が終わった。競技によってバラツキはあるものの、県大会へ進めるのは7、8チーム。そう考えれば、七千人以上の三年生が部活の引退を迎えたことになる。

中学校体育連盟様のご協力のもと、さまざまな競技の取材をさせていただくことができた。その取材の中で、さまざまなドラマに立ち会わせてもらうこともできた。

その中で感じたのは、「最後の夏は違う」ということだった。

これまでも幾つかの大会を取材させてもらった。もちろん、その中にもドラマはあった。だが、この中体連夏季大会のドラマ性は際立っていた。勝ったチームは、これまでにないほどの歓喜に沸き、負けたチームは、人目をはばからず、号泣する。子供をサポートし続けてきた親御さんは、子供たちに労いの言葉を投げかけ、「よく頑張った」と涙を流す。

「部活には四季がある」という話を、とある先生から聞いたことがある。

部活の四季は、秋から始まり、夏に終わる。

新チーム結成直後の10月から11月は、“組織”の秋。組織としてのカタチを作り、その和を重視する。チームの和が乱れていては、この先の厳しい練習に耐えることはできない。「連帯責任」が問われるのはこの時期ということになる。

12月から2月は、“工夫”の冬。寒さが厳しくなり、日照時間も減る。その中でさまざまな工夫をし、効率よく練習することが求められ、さらにはチームとして戦うカタチを形成する。

3月から5月は、“鍛錬”の春。徹底的に追い込むことで、最後の夏を迎えるために最後の追い込みをかける。チームが“グン”と伸びる時期でもある。

そして6月からは、“気持ち”の夏。負けたら終わりの最後の大会。技術よりも、気持ちが勝敗を左右する。

プレーの美しさなど関係ない。「絶対に負けたくない」という気持ちが生み出す“泥臭い”プレーこそが、勝利への鍵となる。

独自の解釈だが、こういうことだろうと思う。

ある競技の取材中のこと。

あるチームが順位決定戦で敗れ、県大会出場を逃した。
県大会に出場する力を持っていたチームなだけに、ある意味“波乱”でもあった。泣き伏せる子供たちの横で、目を真っ赤にした父兄たちが、子供たちに労いの言葉をかけていた。

その中に顔見知りの父兄がいた。目が合うと、こちらに歩み寄ってきてくれた。お互い軽く会釈をすると、その父兄は目を真っ赤にしたままこう話しかけてきた。

「いや~終わっちゃいました。こんなに“ズシン”とくると思わなかったです。(しばらく沈黙)次の週末から何すればいいんだろう…」そう言うと遠くに目をやった。

「お疲れさまでした」
深々と頭を下げ、そう言うのが精一杯だった。

詳しいことはわからない。

ただはっきりと分かるのは、この父兄の子供は精一杯頑張り、そしてこの父兄はしっかりと子供に寄り添って、成長を見届けていたということ。

部活動は子供を成長させるだけではない。親として、正しい親子関係の在り方を学ばせてくれる場でもある。部活動の意義は、きっとこういう所にあるのだろう。

こういう親子の絆が、“最後”という要素の中にあるからこそ、希有なドラマ性を生み出しているのだと思う。

三年生の皆さん、ご父兄の皆さん、「お疲れさまでした」。

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