どんな山を登ろうとしているのか

編集長のひとりごと

高校野球の名門、横浜高校の渡辺元智監督が退任されるらしい。

御年70歳。長年の激務による体調不良が理由のようだ。渡辺監督は20歳の時に横浜高校のコーチに就任し、その後24歳で監督に。甲子園の優勝回数は5回。通算勝利数は51勝にも及ぶ。
70歳という年齢にも驚いたが、横浜高校に50年もいたことにはもっと驚いた。
今でこそ全国から優秀な選手が集まる強豪校だが、就任当時は、法政二高や東海大相模高など、神奈川県内に全国屈指の強豪校がひしめき合っていたため、選手集めを含め、大変なご苦労があったことだろう。今後は、32歳の部長さんが監督を務められるようだ。渡辺監督の指導を受けたくて横浜高校を選ぶ選手も多かっただろうから、今後も引き続き、いい選手が集まり、強豪校としての地位に居続けられるかどうかはわからない。

ただ、渡辺監督が50年間積み上げたチームとしての伝統は引き継がれるはず。選手に求められる姿勢は変わることがないだろう。

似たようなことは、中学校の部活動でもある。

強豪校と呼ばれていたチームが、顧問の先生の異動を機に、一気に勝てなくなってしまうようなことだ。

中学生という時期を考えれば、先生から受ける影響は相当強い。その先生の影響力が強ければ強いほど、その後の反動は大きい。そしてほとんど例外なく、「新しくきた先生が悪い」と言い出す。
子供たちだけではなく、その親たちも、チーム衰退の原因が先生にあるかのように騒ぎ出す。

だが実際はきっと違う。

先生が替わろうが、代々引き継がれているその部活の“伝統”があるはず。強豪校であればあるほど、その伝統という“立ち振る舞い方”は、色濃く残っているはずだ。

先生が替わることでの問題は、子供が“ゆるく”なってしまうこと。新しくきた先生は、夏までは、子供たちの自主性に任せることが多い。ただ子供たちは、強く言われないことをいいことに、宿題などの提出を怠るようになる。ダラダラと練習をし始め、先輩が創り上げた伝統を“あえて”忘れる。そして、大事にしていた具体的な目標は、ただの“夢”へと変わる。

チームとは、細く険しい山の尾根を歩いているようなもの。

練習や団結によって、ゆっくりと山頂という勝利に向かって歩を進めていく。ただ一歩踏み外すと、そこは断崖絶壁。一気に奈落の底へと転落してしまう。

文部科学省によると、スポーツとは、選手と指導者そして環境の3つから成るらしい。
環境には、グランドや体育館などの施設にくわえ、選手をサポートする“親”も含まれる。ただ弁当を作って観てるだけ、と思っていた我々親もスポーツの一部だったのだ。

中学生の親に求められるのは、家庭でのメンタルケア。

家では子供の愚痴を聞き、そして諭すことが求められる。「あなたの目標はなんだったのか」と。他人のせいにし出すと、本来の目的が見えなくなる。部の伝統を、本来の姿を思い出させてほしい。

横浜高校の渡辺監督が、指導の際に大事にしていた言葉がある。

『富士山に登る一歩 三笠山に登る一歩 同じ一歩でも覚悟が違う どこまで登るつもりか 目標がその日その日を支配する』

子供たちが目指す山はどんな山なのだろう。

その山によって、するべき準備も違う。それを再度明確にすれば、「誰かのせい」にしている暇などない。だからこそ、まずは本来の場所へ立ち返るべきなのだと思う。

関連記事