[第12話]復活への大きな“一歩”
10月3日。
この日は可美公園にて練習試合。
仕事を片づけ慌てて向かったが、着いた頃には午後2時をまわっていた。
駆け足でグランドへと向かうと、5年生中心のメンバーが可美のチームと試合をしていた。
ベンチ横では、サトシがキャッチボールをしていた。
「サトシ、今から投げるの?」
と聞くと、
「もう投げました」
「0点で抑えた?」
サトシは笑顔で頷いた。
どうやら完全に一皮剥けたようだ。
コウタはこの日は3塁コーチ。
事故から一ヶ月ちょっと。
コーチとはいえ、試合に携われるまで回復してきた。
(改めて思うが、子どもの回復力はスゴイ)
練習試合とはいえ、大きな声が出ている。
試合は終始フレンズペース。
そして最終回。
驚きの“事件”が起こった!
ベンチで何やらコウタが監督と話をしている。
笑顔で大きく頷くと、グローブを持ってライトへ走った。
「!」
8月21日以来の守備、試合への出場だ。
驚いたのはもちろんだが、それ以上の「嬉しい」という感情が身体中を駆け巡った。
もちろん、試合勘が戻っていないため守備位置も少し微妙。ちょっと深すぎるし、ラインに寄りすぎている。ベンチで観ているのと、出るのでは視界が違うから仕方ない。
結局ボールは飛んでこなかったが、笑顔でベンチへと帰ってきた。
監督や仲間たちがコウタをとびっきりの笑顔で迎えてくれた。
コウタは恵まれている。
チームメイトはもちろん、父兄、監督やコーチなどの指導者の皆さんも常に気をかけてくれている。時に厳しく、時に優しく、正しい方向へ導いてくれている。心のある子供に育っているのは、こうした皆さんのお陰だ。
「なかなか、こんなに周りに恵まれている人間もいないのではないか」としみじみ思った。
試合が終わり、帰宅するやいなや、
「キャッチボールやりに行くか!」
コウタが声をかけてきた。
「よし行こう!」
自宅のすぐ裏にある広場へと行き、軽くキャッチボール。
「よし、じゃあちょっと打つわ!」
両腕のギブスが取れてから、まだ一度も全力でバットを振っていない。
医者から注意されているからだ。
本格的に「ゴー」が出るのは10月13日の予定だ。
最初は軽く“当てる程度”だったのだが、だんだんと強振し始め、最後の方は“全力”で振っていた。
今日の試合も打席に立ちたかっただろう。
でも“我慢”した。
とにかく“完全復活”は10月13日の診察以降だ。
波打っていた振りが段々と鋭くなってきた。打球もライナー性の当たりが“チラホラ”ある。
「あと一発いい当たりが出たら終わるか!」
日はほとんど沈み、辺りは薄暗くなっている。
ボールはほとんど見えない。
「もう一丁!」
それでもコウタは振り続けた。真剣に振り続けた。
完全復活まであと“わずか”。
明日を夢見るには充分すぎるほどの、大きな大きな一日だった。