[第14話] いよいよ“完全復活”!

空飛ぶ野球少年

10月14日。

この日は小学校での体力測定。

50mのタイムを計ったり、シャトルランの回数を数えたり、それぞれの学年における現状の体力を測定する年に1回の体力イベント。

コウタにおける一番の注目は「ソフトボール投げ」だ。

昨年は最もボールを遠くに投げるサトシに“あと少し”の学年2位。
本人も最も自信のある競技なのだが、さすがに今回は期待できない。

そもそも前日に「野球やっていい」と言われたばかり。全力で一度もボールを投げていない。元々細い腕は、さらに細いままだ。

結果はサトシに10mもの差をつけられた32m。

これを聞いた時はショックだったが、本人はいたって“前向き”。

「もう少しすれば、また前みたいに投げれるようになるから大丈夫!」

この無邪気で根拠のない自信が不安をかき消してくれている。
10月16日。

この日の練習からフル参戦。
やっと全ての練習に参加できるようになった。

守備練習では“久しぶり”にファーストに入ったようだ。
練習、特にノックは相当厳しいが、
「すごい楽しかった!」
という本人の言葉を聞き“本来の場所”に戻ってきたんだな、と実感。

時間の許す限り、コウタのガンバリを目に焼き付けておこうと思う。

さらにこの日は嬉しいことがもうひとつ。

「牽制の練習をした!」
とコウタから聞かされた。

“牽制の練習”と言えばピッチャーしかない。

まだ本格的に投げることができない。
それでもコーチは牽制を指導してくれた。

本当にありがたい。

コウタはこの怪我での休暇中に目標を見失ったんではないか、と何度か感じたことがあった。張り詰めた緊張感が切れてしまった様な気がして、このまま“楽な方、楽な方”へと流れていってしまうのではないか、と思うことがあった。実際コウタも「今、ラクでいいな」と思っていたはずだ。

しかし、最初の練習で“ピッチャーの練習”をさせてくれた。

きっとコウタは思い出しただろう。

ピッチャーをやりたくて野球を始めたということを。

コウタの目に“輝き”が戻っているような気がした。
空飛ぶ野球少年




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