自ら考え、行動する力。

編集長のひとりごと

今回号は『2020中体連総括』と題し、中学3年生にとって“中学最後の夏”となる夏季大会の模様を特集した。例年であれば、県大会、東海大会、そして全国大会での結果も総括するのだが、今回は多くの競技で浜松地区大会のみの開催。ほとんどの競技で決勝戦は行われず、複数校が優勝するカタチで最後の夏が終わった。

さまざまな見方があるだろうが、結果として大会が行われて良かったと思っている。もちろん、無観客で行われた競技も多く、子供の最後のプレーを観たかった親御さんからすれば残念な大会になったと思うが、大事なことは、今回の大会で「何を感じ、何を得たか」ではないだろうか。

取材時、多くの子供たちがこんな言葉を発した。「これまで試合があるのは当たり前だと思っていたが、今回の件で、試合があることは当たり前ではなく、有り難いことなんだと気付いた」と。日々の生活の中で、ほとんどのことが当たり前になっており、「当たり前ではない」と気付く機会はほとんどない。寝る場所がある当たり前、ご飯を食べられる当たり前、親がいる当たり前、学校がある当たり前、部活がある当たり前、そして大会がある当たり前。今大会の大きな収穫は、「当たり前だと思っていたことが、実は当たり前ではなかった」と気付くことができたことではないだろうか。子供たちが生きていく未来は、我々の頃とは違い、険しい道程となる。

そもそも、日本の高度成長は人口増によって支えられてきた。自身も大学時代にバブル期を経験し、それが崩壊後に社会に出た。当時は「タイミングが悪い」と言われたものだが、実際に社会に出てみると、それを感じたことはほとんどなかった。当時の親たちの口癖は、「勉強して、いい高校に行って、いい大学に行きなさい。そうすればいい会社に入れるから」。ここで言ういい会社とは、すなわち大企業。大企業に就職することこそが幸せになることだと皆が信じた。

しかし今はどうだろう。安定の象徴であった日本の大企業は次々と海外の企業に買収され、提携という名の吸収合併を強いられている。果たして大企業で働くことが幸せの象徴だと言い切れるだろうか。

5年ほど前から、日本の人口はマイナスに転じ、その流れは加速する一方。地方都市はもちろんのこと、5年後には東京都ですら人口が減り始める。10年後には全国の住宅の1/3が空き家になると言われ、30年後には日本の人口が1億人を切る反面、世界人口は100億人に迫る所まで増加する。要するに、人口の増加により国力が増し、世界のトップクラスに君臨した日本は、子供たちの時代になった時、もはやそこの場所にはいない。世界での競争力は失われているのだ。

だからこそ、子供たちには“生きる力”が求められる。生きる力とはすなわち「自ら考え、行動する力」。今回、彼らは「当たり前のことが当たり前ではない」ことに気付いた。それは我々大人ですら気付いていなかったこと。それをど真ん中で気付いた彼らはこの先の人生において、他の世代に比べて大きな説得力を持つことになる。今回の出来事は決してマイナスではない。大事なことに気付いた彼らしか持ち得ない大きな財産となる。これからの日本を背負う世代となってくれることを切に願う。

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